ゼロスのショートソードの一撃で最後の1人が倒れる。 「やっとおしまいですか〜?」 澄霞がキョトキョトと周囲を見渡すが動く敵はいない。全員、緊張を緩めて武器を納める。 本棚や床に刻まれた戦いの後が痛々しい。 「さて…こいつらはどうする?」 床に倒れた黒ローブの1人をオリヴィエはつま先で転がす。全員合わせて4人が床に倒れている。 「まあ、連れて帰って情報を残らず吐いてもらおう。念のためにロープで縛ってな」 「ロープあるよー」 「私のもどうぞ」 オリヴィエはサラと澄霞から手渡されたロープで気を失っている黒ローブたちを縛り上げていく。 しかしロープが短かったのか、結び方を誤ったか、3人縛ったところでロープの長さが足らなくなった。 「…ロープ足らんな。面倒だ、殺っておくか」 オリヴィエは倒れている最後の1人に向けて踵を振り下ろす。 ゴギッ、と鈍い音が響きそいつは二度と動かなくなった。 「オリヴィエ、そいつらへの尋問は任せた。少し寄るところがある」 「好きにやるが、いいのか?」 少し…というかかなり邪悪な笑みを浮かべるオリヴィエ。 「任せる」 それだけを言って、アルは使い魔の黒猫と共に図書館を出て行った。 「じゃあ、私たちは宿に戻るわよ」 「そだねー、ちょっと疲れたー」 リュミスの提案に全員が頷き、拠点にしている宿へと向かう。捕虜はオリヴィエとゼロスの2人で半ば引きずるように連れて行った。
アルが宿に戻るとリュミスがテーブルにつくように促す。 「結局何処行ってたのかしら?」 「ライン神殿だ。いらぬ疑いをかけられないためにもな」 ちなみに、天窓の破壊も賊の仕業にしてある。 「お疲れ様。それで、これからどうするの?」 「とりあえず神殿に捕虜を引き渡して、旧城の探索願いだろう。手がかりはそこだからな。 それで、捕虜はどうなっている?」 「さあ…少し前まではうるさかったけど。今は静かなものよ」 やれやれ、とアルは立ち上がり宿の2階へと上がる。 そしてノックもなしにオリヴィエの部屋の扉を開けて、ため息を吐く。 部屋の中は凄惨なものだった。首を捻じられ1人はすでに絶命。1人は逆さに吊るされ、生きたまま解体。そして最後の1人は指を1本1本へし折られている真っ最中だった。 宿の床を汚さないように下に何かを引いているのがまだ救いか。拷問を受けている男は叫び声を上げることすら出来ないのか、指をへし折られるたびに体を痙攣させ、顔をゆがめる。 「オリヴィエ、一人は生かしておけ」 濃厚な血の匂いと拷問に少し気分を悪くしながらアルは当事者に声をかける。 「…わかった」 それだけを聞くとさっさと扉を閉めた。 次の日の午前中にアル、リュミス、オリヴィエ、サラはライン神殿に捕虜を連れてやってきた。 「あああっ、図書館で戦闘したとか聞いて心配したんですよ〜」 招き入れられた一室はフィリスがおり、駆け寄ってくる。 「だいじょーぶ、僕達がやられるわけないよー」 くしゃくしゃっとサラがフィリスの頭を撫でる。 「あうぅ〜」 「というか、受け付け嬢のお前がいちいち冒険者の心配をしていたら身体がもたないだろう」 やれやれとアルは息を吐く。 「あは…」 少しバツが悪そうにフィリスは微笑む。 「ま、幸いここは神殿だからな。過労で倒れてもすぐに癒されるだろうが」 「う…」 オリヴィエの発言に思い当たる節があるのか、フィリスは言葉を詰まらせる。 「とりあえず本題に入りましょう。漆黒の旅団の捕虜引渡し」 「あ、はいっ」 リュミスが言い、今にも死んでしまいそうなほどぼろぼろになった男をオリヴィエが連れてくる。 フィリスが目配せをすると近くに待機していた神官兵が連れてきていた男を引きずるように連れて行く。 「こいつの始末も頼む」 と、オリヴィエがフィリスの前に薄汚れた袋を置く。 「何ですかぁ? これ」 口を開こうとしたフィリスの手をアルが掴んで止めた。 「中身は見ないほうがいい」 「は、はぁ…じゃあ、これもお願いしまーす」 中身を少し気にしつつもフィリスは神官兵にその袋を渡す。 「それでー、本日の用件はこれだけですか?」 「いや、実は…」 アルが用件を口にしようとした時、ドンッと爆音が響き、大気が震えた。 「ひゃぁぁっ」 音に驚いたのかフィリスが飛び上がり、サラは耳を押さえてうずくまる。 アル、リュミス、オリヴィエは部屋の窓に駆け寄り外の様子を眺めると丘の方から土煙が上がっていた。 「丘の上…となるとライン旧城だな」 どたどたと神官兵たちが廊下を駆け回る音が神殿のいたるところでする。 「ジークを向かわせるぞ」 「ああ、頼む」 オリヴィエの使い魔である梟がライン旧城へと飛んでいく。 「フィリス様っ!」 バン、と神官兵が荒々しく扉を開けて部屋に駆け込んでくる。 何かを報告しに来たようだが、アル達を見つけて言葉を飲み込む。 「あぁぅ…こ、この人達は大丈夫、ですから。報告どうぞっ」 「了解…しました。先ほどライン旧城地下より爆発が発生。現在それによる町への被害はありません。ただ、調査隊が派遣されるのでフィリス様には依頼所受付に戻って欲しいそうです」 「了解しました」 ぴしっ、と半ば冗談交じりに敬礼してフィリスはアル達に向き直る。 「ちょっと、お願いしてもいいですかー?」 「内容がライン旧城の調査なら受ける。用件はそれだったしな」 「何か用事でも? とりあえず、じゃあお願いしまーす」 フィリスはにっこりと微笑む。 「さて、そこの神官兵」 要件を伝え、戻ろうとした神官兵をアルが呼び止める。少しむっ、としながら神官兵はアルの方を向いた。 「急いでいるのだが?」 「こちらとしても重要な話だ。爆発による地質への影響、ならびに地滑りが発生する確率等はどうなっている?」 「は?」 何を言ってるんだこいつ、と言わんばかりの表情を浮かべる神官兵。 アルは一瞬首を傾げ、 「分かり難かったか…。まあ、地滑りが起きるかどうか調べておくといい」 一方的に言葉を投げつけ、アルは神官兵の横を通り過ぎようとしたが腕を掴まれる。 「おい! 貴様どこへ行く気だ」 「神殿からの依頼でライン旧城の探索だ。許可はつい先ほど下りた」 長身を生かして神官兵を見下すように視線を送り、腕を振って振りほどく。 「行くぞ、リュミス、サラ、オリヴィエ」 「わかったわ」 「はーい」 リュミス、サラはすぐに続き、 「成功報酬は5本で頼む」 オリヴィエはフィリスの肩を叩いてそう言っていた。 「5本…? うー、それは神殿の方に手続きを踏まないとちょっと…」 「5本だ。譲らん」 「あうあう…」 オリヴィエに睨まれ半泣きになるフィリス。心なしか肩を掴んでいる腕に力が入っているようにも見える。 「まあ、無理だったら体で返してもらっても構わんが?」 オリヴィエはフィリスの体を一瞥する。 その視線が嫌だったのか、冗談半分のオリヴィエの言葉を真に受けたのか、フィリスは逃げるようにあとずさる。 「え、えと…その…頑張って交渉します…」 「OK。任せた」 さめざめと涙を流すフィリスを無視してオリヴィエは部屋を出て、部屋の外で待っていた皆と合流して廊下を歩き出す。 「さぁ、いこーっ! お城の探索なんてはじめて〜」 何が楽しいのか、サラは飛び跳ねながら神殿の廊下を進む。 「はしゃいでると足元すくわれるわよ?」 「だーいじょうぶだってー、リュミ姉心配しょー」 笑いながらサラはちょこまか跳ね回る。そのサラをリュミスは半眼で睨みつける。さらに、 「このいそがしい時に…」 「どこの冒険者だ…」 などとぶちぶち言っている周りの神官兵の刺すような視線を同時に受けてもサラは気にしない。 「まあ、何にせよ宿に戻らないとならないから直行はしないぞ」 「えーっ!」 その台詞がとても不満だったのかサラは足を止めて異を唱える。 「なんでー、どっしてー?」 「あのね…このまま行ったら澄霞とゼロス置いてけぼりになるじゃない」 「あー、そっかー。そだねー」 サラはうんうん、と頷く。どうやら納得したらしい。 「これだから下等種族は…」 ふん、とオリヴィエはサラを見下す。 「なにさー、さっきフィリスちゃん困らせる言い方しといてさー。はいとくしゃー、エロだなーんー」 「勘違いもはなはだしい。下等種族相手に誰が欲情などするものか」 じろり、とオリヴィエはサラを睨みつけ、 「わー、こわーいー」 サラは挑発するようにリュミスの影に隠れる。 「まあ、冗談は抜きにしてフィリスの能力は有用ではある」 からかっているサラをたしなめるようにアルが口を開く。 「えー? そーなのー?」 「ああ、その筋では有名な話だ」 「どのすじー? 美味しいー?」 いきなりずれた発言をするサラを無視して、アルは黙々と歩を進める。 気の抜けたオリヴィエは肩をすくめて後を追いかけた。
宿では1階でゼロスが装備の点検中で、それを澄霞が眺めていた。 昼前の空いている時間帯なので別に宿の親父も気にはしていないようだ。 ゼロスが新しく買った防具を付け、感触を確かめていると宿の扉が開いてアル達が入ってきた。 「あ、お疲れ様です。それでどうなりました?」 全員が席に着き、水を渡してから澄霞は問う。 「多少予定とは異なるがライン旧城探索許可は下りた。すぐに行くが大丈夫か?」 「大丈夫」 「了解です」 ゼロスは頷き、澄霞は返事をして2階へ荷物を取りに行く。 「ねぇ…ゼロス」 防具を付けていくゼロスの様子を見ながらリュミスが声をかける。 「何?」 手を止めずにリュミスにほんの少しだけ視線を向け、ゼロスは防具を付ける作業を続ける。 「どうして新しい鎧じゃなくてポイントアーマー買ったわけ?」 リュミスの言葉を聞くなり、ゼロスの手がぴたりと止まる。 幾度かの冒険でゼロスの鎧が使い物にならなくなり処分したのが昨日。代えの鎧を買いに行かす為、神殿には連れて行かなかったし、澄霞をお目付け役として付けたというのに…。 「趣味…よ」 ぽつり、と呟いてゼロスは気を取り直して作業に戻る。 リュミスは盛大にため息をついた。 「うっわーー、おっきな扉だねー」 ライン旧城を前にしてサラが大きな声を上げる。 「少しは落ち着きなさい」 リュミスがたしなめると同時に、ばさばさと羽ばたきながら梟がオリヴィエの近くに降りる。 「ジークが見ていた限り城から出て来た者はいない」 「そうか。サラ、念のために扉を調べてきてくれ」 「りょーかいっ」 さっきまでの浮かれていた表情を少し引き締め、サラが扉を調べにいく。 「まったく、いつもああなら少しは楽なのに…」 眉間をもみほぐしながらリュミスがぼやく。 「まあまあ。あの明るさはサラちゃんのいいところですよ」 「能天気とも言うが」 「あ、あはは…」 オリヴィエの横やりを澄霞は笑って受け流す。 そうこうしているうちにサラが戻ってくる。 「んーっとねー。なんか開けたらどかーん、っていうのがあるみたい」 身振り手振りをしながらトラップの説明をする。 「解除してこい」 「はーい」 面倒くさそうに言うオリヴィエに素直に返事をしてサラはもう一度扉へ近づいていき、 「んーっと…。えいっ」 そしてほとんど無造作に手にした細い板のようなものを扉の隙間に差し込み、引き抜いて戻ってくる。 「おーしまいっ。ほら、はやくいこー」 アルの腕を掴んで、サラはぐいぐいと引っ張っていく。 「あれでどうして罠が作動しないか不思議よね…」 「サラちゃんの妙技…らしいです」 「腕は確かなのだがな。あれも」 リュミスと澄霞が肩を並べ、オリヴィエがその後ろに続き、ゼロスは先を進むアルとサラを早足で追いかける。 先に扉に着いたアルとサラは協力して扉を押し開けた。 長い間風雨に晒され、使われることなく放置されていた扉の金具はさび付き、重苦しい音を響かせながらゆっくりと開く。 そこは大きな広間になっていた。この城が使われていたときにはこの場所で宴会でも開かれていたのかもしれない。だが、現在では過去のそんな様子など見る影もない。床を覆っていたであろう絨毯は朽ち果て、調度品は打ち壊され、ここで行われた戦闘のせいか辺りには瓦礫が転がっている。 昼間だというのに城内は少し薄暗く、外からでは奥の方の様子は窺えない。 開いた扉から風が城内に流れ込み、堆積していた埃を少し巻き上げる。巻き上げられた埃は光を受け、キラキラと光っているようにも見えた。 「埃っぽいわね…」 その様子を眺めているリュミスが眉をしかめる。 「まあ、もう何年も放置されているものだからな。こればっかりは仕方ないだろう」 アルが中の様子を見るために一歩踏み出そうとして…サラに軽く袖口を引っ張られる。 アルは踏み出そうとした足を戻し、少し身を屈めて視線だけでサラに問いかける。 「んっとー…誰かいるみたい」 小声で耳打ち。 「どの辺りかまではわからないか?」 「奥の方のー柱のうしろー」 サラが向ける視線を追ってアルもその位置を確認すると、後ろに立つオリヴィエに視線を向ける。 「右」 簡潔に述べてオリヴィエは杖を構える。 「逆奇襲。行くよ、澄霞」 「わかりました」 ゼロスが剣を抜き、澄霞はそれに祝福を与える。 サラは城内に飛び込み、少し迂回をして手前の柱の影へ。そこに潜んでいた一人の肩を後ろから唐突に叩く。 「…あ? なんだってんだ」 訝しそうに男は振り向く。装備は使い込まれるを通り越してすでにぼろぼろ。恐らくは金で雇われた傭兵なのだろう。 「ねーねー、おじちゃんー。こんなとこでなにしてるのー?」 「…っ!」 一瞬呆気に取られ、気を抜かれると同時にアル、オリヴィエの魔術が完成する。 「魔龍よ、汝が顎で我が敵を滅ぼせ」 「出でよ竜王! 目の前にいるのはてめぇの餌だ!」 異なる呪が紡がれ、竜の上半身の幻影が広場に浮かび上がる。 竜の幻影はゆったりと首を回すと、獲物に狙いを定めて大きく顎を開き、潜んでいた者たちをなぎ払う。その牙に引っかかった何人かは幻影の竜に噛み砕かれ、気を失って床に倒れる。 その幻影に気を引かれている隙にリュミスは奥まで駆け抜け、ゼロスはサラとは反対方向の集団に肉薄する。 「ええいっ! 何故気付かれた」 辛くも幻影の牙を避けたリーダー格の男が声を張り上げる。 「馬鹿か。お前」 「な、なんだとっ」 オリヴィエの冷笑に男は逆上し、距離が離れているにも関わらずオリヴィエのいる方へ剣を向ける。 「数はこちらの方が上なんだぞ! 命乞いをするなら今の…」 最後まで言葉が紡がれる前に、その首筋にゼロスの刃が押し当てられる。 「そのまま返す…」 そのまま首を断ち切ろうと刃を跳ね上げようとして、別の男に押し留められる。 「…残念」 奇襲が失敗に終わったためか、ゼロスはすぐに男達から距離をとった。ちなみに言葉とは裏腹にまったく残念がってはいない。 「え、ええいっ! かかれ!」 首筋を抑えるようにして後ろに下がったリーダー格の男の号令の下、傭兵達が襲い掛かってくる。 「へへーんっ。あったんないよーっだ」 数人に囲まれているのに関わらず、サラは自由に跳ね回り攻撃を避ける。そして隙を見つけては剣を振り、一人一人戦力を奪っていく。 「ふっ…!」 逆にゼロスは傭兵の攻撃を避けず、致命傷にならない程度に受け流す。そして大振りの攻撃で傭兵達をなぎ払う。いかんせん大振りすぎて傭兵に当たっていないのがむしろ致命的ではあるが。 リーダー格の男はほとんど一方的にやられる傭兵達を見て不利を悟ったか、逃げ腰で奥のほうに視線を送り…ほんの少し唇をゆがめる。 「貴様ら! あれを見ろっ」 勝ち誇ったかのように奥のほうの柱を男は指し示す。 その声を合図としたかのように柱の影から銃を持った男が転がり出てきた。そのまま男は数メートルを転がり、ぴくりとも動かなくなる。 「…ぁ?」 勝ち誇った顔から一転、呆然とするリーダー格。 「こんなことだろうと思ったわ」 右手に抜き放った剣を携え、柱の影からリュミスが現れる。左手には気を失っている男の襟首が握られており、ずるずると引きずられている。 「待ち伏せをするからには狙撃手を置くのは基本よね」 掴んでいた左手を離して、まるでゴミを扱うように投げ捨てる。 「さて、切り札のようなものはなくなったようだが…どうする気だ?」 腕組みをしてリーダー格を睨むオリヴィエ。余裕、というよりは油断。 だからこそ、別の伏兵がいることを失念した。 パン、と火薬の炸裂する乾いた音が響き、オリヴィエの体が揺れる。 「ざぁんねん。あれだけではなかったのだよ」 ニヤニヤと嫌な笑みを浮かべる。 オリヴィエは狙われた場所に指を当て、鎧の表面で停止している銃弾を払い落とす。 「少しは驚いたが…所詮こんなものだろうな」 つまらなそうに嘆息する。 狙撃手は急いで弾を込めなおし…飛来した瓦礫が頭に直撃してそのまま地面に倒れ込む。 「いい腕ね、アル」 リュミスがアルの魔術の腕を褒め、狙撃手に止めを刺す。 見ればすでにリーダー格以外の傭兵は床にひれ伏している。 抜き身の剣を携えて、ゼロスがじりじりと距離を詰める。 「大勢で一人を囲んで…貴様ら恥ずかしくはないのか?!」 「戦闘の結果だから仕方あるまい」 「…先に数で攻めてきたのはそちら」 ゼロスがそう言い、リーダー格を一刀の元に切り捨てる。 感慨もなさそうに剣を振り、血を払って鞘に収める。 「しかし、こうも待ち構えられているとはな…」 ぼやきながらアルはベルトポーチから毒消しを取り出す。 「毒なんて食らってたの?」 荷物から水袋を取り出し、リュミスが手渡す。 「ああ、少しかすった」 受け取り、アルは水と共に毒消しを飲みこむ。 「準備いいわね…」 「念のためにな。使うとは思っていなかった」 アルは口元を拭い、水袋を荷物に戻す。 「アル、MPポーション余ってるか?」 「2本あるが…オリヴィエ。補充忘れたのか?」 ベルトポーチにしまっていた1本をオリヴィエに手渡す。 「ああ。すまんな」 ふむ、とアルは皆をぐるりと見渡してみる。どうやら万全、といえる状況でもないらしい。 「一度準備に戻るぞ。急な依頼だったうえに待ち構えられている以上、装備を整えなおした方がいいだろう」 そう言って入ってきた扉の方へと歩き出す。 「えー、もどるのー?」 アルを追いかけつつ、サラが唇を尖らせる。 「無謀と勇気は違うわよ、サラ」 「それにすぐ戻ってきますから、ね」 「うー…りょかい」 リュミスと澄霞に諭され、サラは不承不承頷いた。
to be continued |